「沈まぬ太陽」会長室編 続
混乱した国民航空の体制を立て直せる人物に、なぜ、関西の、それもそれほどの
大会社でもない関西紡績の国見社長に目がつけられたのか。国見社長は、生え抜きの
社長で、労務問題についても手腕を発揮した経緯と企業家としての手腕を買われたのでした。
首相の影の側近の竜崎から、呼び出しをうけた国見は、用件を聞かされぬまま関西から
東京に出かけ、竜崎と面会します。
相談内容を聞いて、国見は即座に断ります。そんな大任を引き受けることはとても
できない。自分は、まだ関西紡績の現役の社長である・・・というのがその理由です。
まあ、普通の人でしたら、断るのが当たり前です。なんで、自分と何の関係もない
課題の多い国民航空の社長になんかにならないといけないのか。
しかし竜崎は諦めません。2度3度と社長就任を要請してきます。国見は、社長の
就任を受けることはできないが、自分が調べたところ、国民航空の運営上の問題点は
ここにあるからと、会社の課題を箇条書きにして、竜崎に渡します。
国見の鋭い指摘に、竜崎はこの人物よりほかに適任者はいないと確信します。
最後に国見社長のこころを動かしたのは次の言葉です。
「お国のために重責を引き受けていただきたい」
もと陸軍大本営の参謀であったという経歴を持つ竜崎は、戦中派の国見の心を動かす
コツを心得ていました。かたくなに固辞しつづけた国見も、最後には
「二度目の召集を受けたと考え、お引き受けします」と受諾するのでした。
若き日、戦場で多くの同僚の死を見続けて、生き残った国見は、そのあと、靖国神社
へ参拝します。
※戦中派ということばの意味を現在分かる人はだんだん少なくなるでしょう。この小説のように
「お国のため」、「二度目の召集」というあたりの感覚は、今の人にはぴんとこないでしょうね。
もちろん、私もそうですが。かつて、戦争に行った人の昔話をきいていますと、天皇のために
国家のために死ぬというのが兵士の栄誉の時代でした。